犬のがんの緩和ケア|必要性や方法〔獣医師監修〕

目次:
1、がんの緩和ケアとは?
2、がんの緩和ケアの必要性
3、犬のがんにおける痛みの緩和ケア

手術や抗がん剤治療、放射線治療などの医療技術を使いながら愛犬のがんと闘っていても、緩和ケアに切り替えなければいけない状況下に置かれることがあります。また、これら治療を行いながらがんの緩和ケアが必要になることもあります。

1、がんの緩和ケアとは?

1-1、緩和ケアとホスピスケアの違い

獣医療においてもホスピスケアという言葉を耳にするようになりましたが、厳密にいうとホスピスケアに関しては、他に治療法がないような余命の短い犬(人)に提供されるのに対し、緩和ケアは抗がん剤など何かしらの他の治療を行いながら緩和治療を行う場合も含むのが特徴です。

いずれにせよ、薬による痛みの緩和(ペインコントロール)を中心に、愛犬のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)改善のために用いられ、犬に極力苦痛のない余生を過ごさせてあげるためにはとても大切な治療です。

1-2、緩和ケアは獣医師と家族が協力する

緩和ケアにおいては、獣医師の薬の処方など西洋医学を中心に行いますが、家族(飼い主)が協力して行うことがとても大切です。個体差もありますが犬は痛みを感じていることを隠す傾向にあり、ましてや言葉を話さない動物ですので、日々愛犬と接する中で行動の変化(目で分かる変化)をしっかりと観察して獣医師に相談することが大切です。

感じている痛みの度合いはがんの進行度合いや発生部位などによってある程度は予測できます。しかしながら、ペインコントロールは飼い主が痛みの発生を中心に小さな変化に気づいてあげることがとても大切です。痛みの改善だけでなく予防として薬が処方されたり治療が行われたりすることもあるので、しっかりと獣医師と話し合って緩和治療について決めていきましょう。

【がん|緩和ケアに使われる薬】

1-3、痛みの緩和だけが緩和ケアではない

WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義を前提に考えた場合、緩和ケアはQOL向上のために身体的負担の軽減だけでなく、心理的、またはスピリチュアル的負担に対しての苦痛の予防・軽減が含まれます。

そのため、犬の体の負担軽減は獣医師の緩和治療が主になりますが、精神的負担の軽減も非常に重要。動物病院に連れていく回数が減るよう自宅でできるケアを飼い主自身が行ったり、生活する中で起こりうる犬の不都合などに対して対策を行ってあげることも緩和ケアの一環です。

2、がんの緩和ケアの必要性

2-1、体と心の痛みのケア

がんの種類によっては薬剤を利用して痛みを緩和できないものもありますが、それでも獣医療で緩和ケアが取り入れられるようになってから、がんを発症した犬たちが快適に余生を過ごすことができる可能性が随分広がりました。

一昔前では安楽死を迫られたケースであっても、現在ではがんに伴う体と心の痛みを和らげて動物病院でなく家族と共に自宅で穏やかに過ごすことができる犬も増えました。犬が家族の一員として大切にされる現代では、がんを発症している犬にとっては緩和ケアは無くてはならないものです。

【犬のがん|愛犬のために飼い主ができること】

2-2、家族の心のケア

がんに苦しむ愛犬の緩和ケアをすることは、家族(飼い主)の心のケアにも役立ちます。可愛い愛犬が苦しむ姿は誰だって見たくはありません。ただでさえ、がんという重い病気と闘う犬。極力痛みを取り除き、穏やかに過ごさせてあげることは家族の心のケア(喜び)にも繋がるのではないでしょうか。

2-3、愛犬の心のケア

がんを発症している犬の場合、痛みだけでなく発生部位によっては呼吸が苦しくなったり吐き気や食欲低下、身体のだるさなどのストレスによって精神的な負荷もかかることから、QOLが低下しやすい状況になります。身体のストレスは必ず心のストレスに繋がるので、少しでも体にかかる負荷を減らしてあげることで心も同時にケアしてあげましょう。

その他、体の緩和ケアと同時に、優しく撫でたり声掛けをするなど、愛犬とのコミュニケーション方法を見直すことも大切です。最近では針灸などの東洋医学、メディカルアロマなどの治療を取り入れている動物病院もあるので、犬に負担がかからないようであれば西洋医学と併用して活用してみるのも良いでしょう。

3、犬のがんにおける痛みの緩和ケア

3-1、痛みの緩和ケア(ペインコントロール)

がんの進行によって全ての犬に痛みが生じるわけでなく、神経が分布している場所にがんが入り込んでいるような場合、またはがんの組織が大きくなることで神経部分に圧迫が生じてしまっている場合などに痛みが生じます。その他、がんの発生部位・種類などにより緩和ケアの必要性、または方法は異なります。

がんが進行している犬の場合、大抵獣医師は犬に痛みがあること前提でペインコントロールを目的とした治療を行いますが、日々の生活で起こっている症状や犬の変化などを獣医師に詳しく説明して、必要に応じて検査でがんの進行状況を確認しながら痛みの緩和ケアを行う必要があります。

3-2、がんの痛みと痛みを生じやすいがんの種類

がんの痛みは、急性痛的な痛みと慢性痛的な痛みの性質の両方を持ち合わせているといわれており、いずれにせよがんの発生部位や種類などによっては、長時間強い痛みが続くことが往々にしてあります。

消炎鎮痛剤や麻薬系の薬が緩和ケアで処方されることがありますが、犬のがんの中でも骨肉腫は痛みの度合いが重度だといわれています。犬の場合は骨原発性腫瘍の中では骨肉腫が一番発生率が高いといわれていますが、中でも大型犬の場合は四肢に発生することが多く、断脚手術によって痛みを緩和させる方法が施されることが多いのが特徴です。

3-3、がんの痛みを緩和するための治療方法

がんの痛みを緩和するためには、先述でお話させていただいた通り鎮痛剤や麻薬性の薬が投与されるのが一般的ですが、放射線治療設備がある動物病院では放射線で痛みを和らげることもあります。薬に関しては、飲み薬や注射、座薬、貼るタイプのものなどがありますが、獣医師の説明をしっかりと聞いて愛犬の痛みの状況に合わせて緩和治療を行う必要があります。

【愛犬のがん闘病生活ブログ】

3-4、麻薬性鎮痛剤について

骨肉腫をはじめとし重度の痛みでモルヒネやフェンタニルが必要な場合は、別途獣医師が「麻薬使用者」として届け出が必要になることから、全ての動物病院で薬を扱っているわけではないので注意が必要です。麻薬性鎮痛剤に関しては、錠剤タイプのものや注射薬、パッチ状の経皮吸収されるタイプの薬があり、副作用の確認はもちろん取り扱いに注意しなければいけないものが多いため、都度獣医師の厳密な指示に従うことが大切です。


WRITER Profile

記事作成者:  望月 紗貴
犬たちの幸せ(=飼い主の意識の向上)を目的とし情報提供サイトを開設。老犬介護士、ペット看護師、犬の管理栄養士を中心に多数ペット資格を保有。他社の記事監修・作成も数多く請け負う。

記事監修者:  (獣医師)西原 克明

動物病院の院長を務めながら、様々なペット関連業界で活躍。腫瘍外科や椎間板ヘルニアを中心に「特殊外科」の執刀を得意とし、腸内細菌や口腔内細菌の研究を行い予防医療にも注力している。


犬のがんの緩和ケア|薬や治療法など〔獣医師解説〕

1、犬のがんの緩和ケアに効果的な薬は?
2、犬のがんの緩和ケアに使用される薬のタイプは?
3、犬のがんの急性痛・慢性痛について
4、ペインコントロールに有効なその他の治療法

がんを発症した犬の場合、痛みを中心に緩和ケアにおける治療がとても大切になるケースがあります。今回は、犬の緩和ケアについて、薬を中心とした専門的内容を獣医師に幅広く解説していただきました。

1、犬のがんの緩和ケアに効果的な薬は?

1-1、がんの緩和ケアに使用される薬の概要

犬のがんの緩和ケア治療に使用される薬には鎮痛薬、抗炎症薬、局所麻酔薬などがあります。鎮痛薬は痛みを減らす効果があり、抗炎症薬は犬の痛みの原因となる炎症を抑えることで間接的に痛みを減らす効果があります。がんのペインコントロールに使用される薬としては鎮痛薬、抗炎症薬などが一般的で、局所麻酔薬は神経を麻酔することで痛みを感じなくさせるブロック麻酔という治療手法で用いられます。

1-2、がんの緩和ケア治療に有効な鎮痛薬

犬の鎮痛薬は麻薬性鎮痛薬、非麻薬性鎮痛薬、解熱鎮痛薬に分けられます。麻薬性鎮痛薬はモルヒネ、フェンタニルなどが代表的です。犬の麻薬性鎮痛薬は習慣性を伴う強力な鎮痛作用を持ち、脳や神経に作用。病巣から脳に向かう痛みの信号を止めます。

非麻薬性鎮痛薬はブトルファノール、トラマドールなどが代表的です。これらは習慣性を持ちませんが、麻薬性鎮痛薬と比較すると軽度の鎮痛効果を持つと報告されています。麻薬性鎮痛薬と同じ方法で痛みを減らす為、犬に投与する際、併用することでお互いの作用を弱くしてしまう場合があります。

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1-3、がんの緩和ケアで使用されるオピオイド

麻薬性鎮痛薬と非麻薬性鎮痛薬は、オピオイドと呼ばれる薬の種類です。オピオイドはがんの緩和治療における重要な薬ですが、人間においてオピオイドは重度の呼吸抑制、薬物耐性(長く使用することで作用が弱まること)があると言われています。

しかしながら、犬の場合はオピオイドに対する呼吸抑制の感受性が人ほど敏感ではなく、使用する期間も短い為、これらの副作用はあまり問題にはならないと報告されています。

1-4、がんの緩和ケアで使用される解熱性鎮痛薬

解熱性鎮痛薬は、NSAIDs(エヌセイド)と呼ばれる非ステロイド系抗炎症薬の中で鎮痛効果を持つものを指します。犬の解熱性鎮痛薬はケトプロフェン、アスピリンなどが代表的で、がんの痛みの原因物質が生成されることを防ぎます。

犬の解熱性鎮痛薬もオピオイドと同様にがんの緩和ケアに有効ですが、種類によっては胃潰瘍、血液凝固阻害(血が固まらない)などの副作用がでる場合があります。低頻度ですが腎臓に対する副作用を持つとする報告があるため、がん以外に腎疾患を持つ犬に投与する際には注意が必要です。

1-5、がんの緩和ケアで使用される抗炎症薬

抗炎症薬は、NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)とステロイドに分けられます。NSAIDsは炎症の原因物質が生成されることを防ぎます。解熱性鎮痛薬と同様に胃潰瘍、血液凝固阻害、腎障害などの副作用があります。また、NSAIDsには抗腫瘍効果があり、骨肉腫、乳腺癌、口腔内メラノーマなどのcox-2と呼ばれる酵素を多く持つ様々な犬の腫瘍に効果的である可能性があると述べられています。

ステロイドはプレドニゾロン、デキサメタゾンなどが代表的であり、強力な抗炎症作用を持ちます。犬に投与した際、免疫抑制や医原性クッシング症候群などの重大な副作用を引き起こす場合があるので、獣医師に指示されている量を適切に与えることが重要。またNSAIDsとステロイドの併用は重大な副作用を引き起こす可能性が高く、併用は禁忌とされています。

2、犬のがんの緩和ケアに使用される薬のタイプは?

2-1、がんの緩和ケアの治療で使用される薬の投与方法

犬のがんの緩和ケアに用いられる薬にはいくつかの投与方法があります。薬を口から与える「経口投与」、皮ふから吸収させる「経皮投与」、注射などにより体内に投与する治療方法などがあります。

2-2、がんの緩和ケアにおける経口投与とパッチの使用方法

経口投与は薬が比較的早く、犬のがんの痛みに効果を現します。経皮投与には犬の皮膚に直接薬を塗布するほか、パッチと呼ばれるシールを皮膚に貼る方法もあります。

パッチによる経皮投与は薬剤が長期間作用する特徴があり、長期間薬を作用させるためパッチには多くの量の薬が含まれており適切な使用が重要になります。パッチを温めると薬剤の過剰投与につながり危険です。犬がパッチをつけた状態での入浴等も避けて下さい。

2-3、がんの緩和ケアにおける注射の種類

注射による投与には静脈内投与、筋肉内投与などがあります。どちらの投与も薬がすぐに効果を表しますが、注射による治療は動物病院において獣医師による処置として行われます。たとえ同一の薬であっても投与する方法が異なる場合、混同して使用することはできません。

がんの緩和ケアに使われる薬は強力な効果を持つものが多いのが特徴です。犬に投与する場合、必ず獣医師に指示された量を正しい時間に投与するようにして下さい。自己判断で量を増減すると大変危険ですので、獣医師の指示で薬を与えても犬が痛みを感じている、効果が感じられないような場合は再度獣医師に治療の相談をお願いします。

3、犬のがんの急性痛・慢性痛について

3-1、犬のがんの急性痛・慢性痛

がんによる痛みには急性痛と慢性痛の二種類があります。急性痛は腫瘍が急激に発生したとき、膵炎などの劇的な症状が出たとき、手術を行った直後の犬などに発生します。慢性通は術後の経過、がんが長期化したときなどに発生します。

痛みの評価方法として、急性痛ではレベル4を最大の痛みとして評価するペインスケールが、慢性通では痛みの判別のためのチェックポイントが報告されています(動物の痛み研究会)。これらの評価は飼い主さんでも簡単に行うことができ、獣医師に犬の痛みを正しく伝え適切な治療をするために効果的です。

3-2、急性痛のペインスケール(一例)

レベル1:ゲージから出ようとしない、尾が垂れている、患部を舐めたり噛んだりして気にする、などの行動が見られます。
レベル2:耳が垂れている、食欲の低下、自分から動かない、痛いところをかばう、などの行動が見られます。
レベル3:体が震えている、攻撃的になる、横にならない、間欠的に鳴く・唸る、体を触ると怒る、などの行動が見られます。
レベル4:食欲が完全になくなる、ずっと鳴く・唸る、なきわめく、眠らなくなる、全身が硬直するなどの行動が見られます。

3-3、慢性痛のチェックポイント(一例)

・散歩や遊び、ソファーなどの上り下りなどの運動を嫌がるようになった
・立ち上がるときにつらそうになった
・尾を下げている時間が増えた
・寝ている時間が増えた、減った
・足を引きずるようになった

3-4、犬のがんの痛みに関して(がんの痛みの評価)

犬のがんの痛みについては明らかにされていないことが多いのが特徴です。各腫瘍における痛みの程度については未だ十分な研究がなされていません。消化器、泌尿器、口腔・鼻腔、皮膚、乳腺、骨、中枢神経系における腫瘍においては痛みがあると言われており、がんの緩和ケアにおいて重要になるのは、犬が感じている痛みを評価することになります。

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実は動物病院では犬が我慢してしまうことから、痛みを正しく評価できない場合があります。獣医師は手術などの治療を中心に犬にとってひどいことをしますし、飼い主さんとも離ればなれになってしまいます。そんな恐怖心が強まる状況下では、犬は痛みを頑張って隠してしまうのです。犬にとって飼い主さんは信頼できるパートナーですので、家で飼い主さんと一緒にいるとき、犬は自分がどれくらい痛いのかをしぐさや声で表してくれるかもしれません。

犬の痛みを一番正しく評価できるのは飼い主さんですので、急性痛、慢性痛の評価方法で飼い主さんが痛みを評価することが大切。その情報から獣医師が適切な処置を行うことが痛みの緩和ケアに最も有効と言えるでしょう。

4、ペインコントロールに有効なその他の治療法

犬のがんの緩和ケアに有効な補助的な治療法には身体リハビリテーション、サプリメントなどが挙げられます。これらの補助療法は鎮痛薬、抗炎症薬などの治療法と併用することで、より効果的なものになります。また、腫瘍の種類によっては大変危険な状態になる補助療法の組み合わせもあります。
例えば、肥満細胞腫などは腫瘍部を物理的に刺激することで、犬に劇的な症状が発生します。補助療法を行う場合は必ず獣医師に相談の上行ってください。

・身体リハビリテーション|運動療法、物理療法などがあり、運動療法は運動により血流、リンパの流れを改善します。人の場合、NSAIDsと同等の鎮痛作用があると報告されています。物理療法には温熱療法、冷却療法などが含まれます。温熱療法は運動療法と同じく、犬の血流、リンパの流れを良くすることで鎮痛作用をもたらします。冷却療法は急性疼痛の緩和に有効だという報告があります。

・サプリメント|ω-3脂肪酸、グルコサミン・コンドロイチンなどが含まれます。ω-3脂肪酸のうち「エイコサペンタエン酸(EPA)」と「ドコサヘキサエン酸(DHA)」は穏やかな鎮痛作用を持ち、慢性痛の補助的治療に使用できると報告されています。その他のω-3脂肪酸には鎮痛作用はないため注意が必要です。グルコサミン・コンドロイチンも同様に穏やかな鎮痛作用を持ち、慢性痛の補助療法として使用できる可能性があります。しかし、これらの物質の軟骨に対する保護効果については科学的に十分な根拠はありません。


WRITER Profile

獣医師ライター:  若林 薫
子犬や子猫の治療、健康管理を得意分野とする。動物病院の獣医師と飼い主を繋ぐための専門的で分かりやすい記事を執筆。獣医師免許証保有。

サイト運営者:  望月 紗貴
犬たちの幸せ(=飼い主の意識の向上)を目的とし情報提供サイトを開設。犬の看護師や介護士、管理栄養士資格など保有。他社の記事監修・作成も多数請け負う。

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