犬の抗がん剤による副作用や対処法など

目次:
1、腫瘍の発生と抗がん剤
2、抗がん剤の種類別副作用
3、抗がん剤の副作用に対する対処法
4、抗がん剤による副作用を減らすための治療法

愛犬の悪性腫瘍が発覚したとき抗がん剤治療も選択肢の一つになりますが、副作用リスクに関しても頭に入れておくことが大切です。私自身、愛犬の組織球肉腫の抗がん剤治療で胃腸障害や食欲不振などの副作用が引き起こされ、愛犬はもちろんですが見ている私もとても辛い経験をしました。

実際に副作用軽減のための対処を行うことができるのは獣医師ですが、日々の愛犬の様子を詳しく確認して獣医師に伝えることができるのは飼い主さん自身です。今回は、抗がん剤によって起こりやすい副作用や動物病院での一般的な対処法について獣医師に詳しく解説していただきました。

1、腫瘍の発生と抗がん剤

ここでは、腫瘍細胞の発生や抗がん剤による副作用の基本的内容を解説します。

1-1、腫瘍はどこから来るのか

多段階発癌説という仮説があり、これは正常な細胞が腫瘍細胞に変化するまでの3つの段階について述べたものになります。はじめの変化である「イニシエーション」では、正常細胞のDNAが変異し、次の変化である「プロモーション」では、DNAの変異を持つ細胞が新たな変異を蓄積させながら増殖。

最後の変化である「プログレッション」では、細胞は増殖能と転移能を獲得し、腫瘍細胞に変化します。このことから、腫瘍細胞というものは、そもそも犬の正常な細胞であったとも言えるのです。

1-2、薬の種類別副作用

一例として抗生物質は、動物細胞と細菌の生理学的な違いを利用して細菌を特異的に攻撃し、抗真菌薬は抗生物質と比較すると副作用が大きいのが特徴です。真菌は細菌より動物細胞に近い、つまりは進化的に近縁とも言える特徴を持つためです。

犬で使用される抗がん剤も、抗真菌薬よりさらに強い副作用を持ちます。腫瘍細胞と正常な細胞は同じ動物細胞であり、基本的な生理学的構造は共通しているからです。

2、抗がん剤の種類副作用

ここでは、犬に使用される抗がん剤の種類別で、一般的に引き起こされやすいといわれている副作用について紹介していきます。

2-1、種類と副作用

アルキル化剤|
アルキル化剤に関しては、シクロフォスファミド、ロムスチン、クロラムブシルなどが代表的です。DNAの複製を阻害し、副作用としては骨髄抑制(ロムスチンで重度)、出血性膀胱炎(シクロフォスファミド)などの副作用が生じる犬がいます。

代謝拮抗剤|
代謝拮抗剤に関しては、メトトレキサートや5FUなどが代表的です。DNAの合成に必須である物質に置き換わり合成を阻害しますが、骨髄抑制などの副作用が生じる犬がいます。

ビンカアルカロイド|
ビンカアルカロイドに関しては、ビンクリスチンやビンブラスチンなどが代表的です。細胞分裂や染色体分裂をつかさどる微小管と呼ばれる糸を機能不全にさせます。ビンカアルカロイドの副作用としては骨髄抑制と神経毒性(ビンクリスチン:末梢性の神経毒性で便秘が起こる)などの副作用が生じる犬がいます。

抗腫瘍抗生物質|
抗腫瘍抗生物質に関しては、ドキソルビシンなどが代表的です。DNAやRNAの合成を阻害します。ドキソルビシンの副作用としては、心毒性(心臓に悪影響な毒性)などが知られています。

白金製剤|
白金製剤に関しては、カルボプラチンやシスプラチンなどが代表的です。DNAの複製を阻害し、犬に起こりやすい副作用としてシスプラチンの場合は腎毒性、重度嘔吐、聴覚器毒性、骨髄抑制。カルボプラチンの場合は、骨髄抑制などが引き起こされる可能性があります。

抗腫瘍酵素製剤|
抗腫瘍酵素製剤に関しては、L-アスパラギナーゼなどが代表的です。特定の腫瘍が主な栄養素として利用するアスパラギン酸を分解します。L-アスパラギナーゼに関しては、急性膵炎などの副作用が知られています。

3、抗がん剤の副作用に対する対処法

ここでは、抗がん剤によってよく犬に起こる副作用や、動物病院で一般的に行われる対症療法についてご紹介致します。

3-1抗がん剤でよく起こる副作用

抗がん剤にはよく確認される副作用があり、吐き気や下痢、好中球(代表的な白血球)減少症がこれにあたります。癌細胞は正常な細胞より分裂速度が速く、その違いを標的にする薬が多く存在しますが、分裂速度が速い腸の上皮細胞や骨髄の血球系幹細胞(白血球の元になる細胞)は影響を強く受けます。

この結果として、下痢や好中球減少症などの抗がん剤副作用が引き起こされやすくなります。また、抗がん剤は毒性の高い異物なので、吐き気が副作用として現れることが多くあります。

3-2、副作用の症状に応じた対処法

動物病院で行われる下痢の対処法としては、メトロニダゾールやタイロシンなどの抗生物質やその他の下痢止めが使用されています。

好中球減少症への対処法としては、抗がん剤投与前に抗生物質を投与する方法と、「G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)」の投与によって好中球そのものを増やす方法があります。

吐き気に対処するためには、マロピタント、オンダンセトロン、メトクロプラミドなどの制吐剤が使用されるなど、副作用の症状に応じて獣医師が犬の状況に応じた薬を使用します。

その他、抗がん剤は腎臓から排出されるものと肝臓で代謝を受け胆汁を通して腸管に排出されるものがありますが、腎臓から排出されるものの場合、腎障害や泌尿器障害を引き起こすことがあります(シクロフォスファミドの出血性膀胱炎等)。

このようなケースでは、利尿剤の投与により腎・泌尿器を尿で洗い流し、抗がん剤代謝物の毒性を弱め対処するなどの方法があります。いずれの場合も、対症療法を行うためには愛犬の状況を飼い主さん自身が細かく確認して、獣医師に的確に犬の症状を伝えることが大切です。

3-3、モニタリングによる対処

抗がん剤の持つ副作用が犬が許容できる範囲内に収まるように、個々の犬のバイタルサインや血球数、血液生化学測定値をモニタリングしながら、抗がん剤の投与量を調節していく方法も一般的です。前述した薬剤による対症療法と組み合わせて行います。

4、抗がん剤による副作用を減らすための治療

現在に至るまでに、獣医療でも抗がん剤の持つ副作用を回避するために様々な方法が生み出されてきました。ここでは、いくつかご紹介していきますが、犬に発生している腫瘍の種類によっては使用できない方法や、本当に効果的か否かが不明瞭(現状実験段階)の方法もあります。

4-1、多剤併用療法

多剤併用療法とは、犬に複数の抗がん剤を組み合わせて投与することで単剤の投与量を低くして副作用を抑え、それに加えて異なる作用機序を組み合わせることで効果的に腫瘍を攻撃します。

多剤併用療法はリンパ腫の一般的な治療法として使用されており、科学的な根拠のあるいくつものプロトコールが存在します。なお、犬のリンパ腫の抗がん剤プロトコールに関しては【犬のリンパ腫|抗がん剤の種類や効果など】をご確認ください。

4-2、分子標的薬における副作用軽減

トセラニブ|
皮膚肥満細胞腫の治療に用いられるトセラニブという抗がん剤があり、これは分子標的薬と呼ばれる、腫瘍細胞が正常な細胞より多く持つ物質(トセラニブではKIT分子等)を標的にした薬剤です。

一般的な犬の抗がん剤よりさらにピンポイントで腫瘍細胞のみを攻撃でき、副作用の発現を抑えることができます。しかしながら、完全に副作用がないわけではありません。日本におけるトセラニブの副作用は、投与された犬のうち約60%で食欲不振、約20%で嘔吐、約40%で下痢、約10%で白血球減少症(免疫力低下)が起きたという報告があります。

これらの副作用は、多くは対症療法(根治を目的としない症状を抑えるための治療)で改善したとも述べられています。トセラニブは、皮膚肥満細胞腫のみに認可が下りている薬剤ですが、いくつかの腫瘍に対しても効果があると示唆されており、今後の研究によって新たに認可が下りる可能性があります。

ニボルマブ|
人の悪性メラノーマの治療に用いられる、ニボルマブという抗がん剤があります。メラノーマで多く発現するPD-1分子に対する分子標的薬ですが、ニボルマブは犬には効果がないといわれています。

しかしながら、犬に対してある程度の効果が報告された同じ作用機序を持つ分子標的薬が現在研究されているので、今後の獣医療においても使用される見込みがあります。

4-3、DNAワクチンにおける副作用軽減

DNAワクチンとは、癌細胞の遺伝子の欠片をワクチンとして注射することで、健康な細胞がその遺伝子を取りこみ、癌細胞の蛋白質等を分泌。それに対して免疫応答が起き、抗体が産生され癌細胞そのものを攻撃する、という複雑な作用機序を持つ薬剤です。

抗体は特異的に癌細胞に結合する為、DNAワクチンにおいては一般的な抗がん剤より副作用が少ないことが予想されます。犬の悪性メラノーマに対するDNAワクチン、特定のリンパ腫に対するDNAワクチンなどが知られており、悪性メラノーマに対するDNAワクチンの場合はアメリカでは認可が下りていますが、効果が疑問視されているため日本での認可はまだ下りていません。

ちなみに、特定の犬のリンパ腫に対するDNAワクチンに関しては、現在効果を確かめるための研究が行われています。

まとめ

今回は、犬の抗がん剤で引き起こされやすい副作用や動物病院で行われている対処法を中心に獣医師に解説していただきました。

抗がん剤副作用に対する対症療法は副作用の症状だけでなく、それぞれの犬の状況に合わせて行う必要がありますので、抗がん剤を使用している場合は、一層愛犬の日々の様子を細かく確認。

愛犬の状況や些細な変化などを詳しく説明して、副作用を減らしてあげられるよう獣医師と二人三脚で愛犬をサポートすることが大切です。

犬の悪性腫瘍に関連する記事一覧:https://true-dog-lover.com/malignancy/
愛犬の組織球性肉腫闘病ブログ:https://true-dog-lover.com/pet-dog-blog/cancer-dog/


WRITER Profile

獣医師ライター:  若林 薫

子犬や子猫の治療、健康管理を得意分野とする。動物病院の獣医師と飼い主を繋ぐための専門的で分かりやすい記事を執筆。獣医師免許証保有。


サイト運営者:  望月 紗貴

犬たちの幸せ(=飼い主の意識の向上)を目的とし情報提供サイトを開設。犬の管理栄養士や看護師、介護士資格など保有。他社の記事監修・作成も多数請け負う。