犬のリンパ腫|抗がん剤の種類や効果など〔獣医師解説〕

目次:
1、犬のリンパ腫とは?
2、リンパ腫の分類について
3、抗がん剤療法と多剤併用療法の治療プロトコール
4、抗がん剤の副作用

犬の腫瘍の中で比較的発生しやすいといわれているリンパ腫ですが、今回は犬のリンパ腫の種類や効果を示すと考えられている抗がん剤の概要を中心に、獣医師に詳しく解説していただきました。

1、犬のリンパ腫とは?

犬のリンパ腫は白血球の悪性腫瘍です。同じ白血球の悪性腫瘍として白血病などがありますが、リンパ腫は脾臓や肝臓、リンパ節などから腫瘍細胞が発生するのに対して、白血病は骨髄や脾臓などから腫瘍細胞が発生します。

リンパ腫は犬の腫瘍の中で3番目に発生率が高く、無治療での余命が2カ月前後、治療をしての余命が長くて1~2年と報告されています。約80%の犬は抗がん剤に反応し、腫瘍が確認できなくなる状態(寛解)になりますが、犬のリンパ腫は寛解と再発を繰り返す特徴があります。好発犬種があり、ゴールデンレトリバーで最も発生が多いと報告されています。

2、リンパ腫の分類について

リンパ腫は非常に多くの分類分けがなされるのが特徴ですが、ここでは、発生する場所による分類を中心に解説致します。

2-1、犬のリンパ腫の分類

犬のリンパ腫には、発生する場所による分類と癌細胞の特徴による分類などがあります。前者は多中心型、消化器型、皮膚型、縦隔型(胸腺型)、節外型に分類されます。

後者はB細胞型、T細胞型などの細胞的特徴で腫瘍を分類するものですが、リンパ腫が持つ細かく数多い種類をいくつかの型に分けて分類したものになります。ここでは発生する場所による分類について説明していきます。

2-2、多中心型リンパ腫

多中心型リンパ種は犬のリンパ腫の中で最も一般的なものであり、リンパ腫の約80%がこれに含まれます。全身のリンパ節から複数の腫瘍が発生し、肝臓や脾臓、骨髄に癌細胞がみられる場合もあります。

多中心型リンパ腫が発生する犬を100%とした場合、非特異的な症状(リンパ腫に特徴的にみられるとは限らない症状)が発生する犬が20~40%。それに対して、多中心型リンパ腫が発生する犬で無症状なものが残りの60~80%です。

2-3、消化器型リンパ腫

犬のリンパ腫のうち約7%が消化器型リンパ腫にあたります。消化器型リンパ腫は胃や腸などの消化器に存在するリンパ節から腫瘍が発生します。犬に嘔吐や下痢、血便・黒色便や便が出にくい(しぶり)などの症状が見られることがあります。

消化器症状と腫瘍の組織への侵入により栄養や水分の吸収が阻害されることで、削痩(著しく痩せた状態)や脱水が生じる犬がいます。

2-4、皮膚型リンパ腫

犬のリンパ種のうち約6%が皮膚型リンパ種にあたります。皮膚型リンパ腫では皮膚のしこり、潰瘍(穴)などが発生します。皮膚型リンパ腫は症状が進むと、犬の皮膚や四肢などの複数のリンパ節が腫れたように大きくなります。

2-5、縦隔型(胸腺型)リンパ腫

犬のリンパ種のうち約3%が縦隔型リンパ種にあたります。左右の肺に挟まれた心臓を包みこむ膜を縦隔といいます。縦隔型リンパ種では縦隔にあるリンパ節に腫瘍が発生します。縦隔内の腫瘍が大きくなることで犬の肺が圧迫され、圧迫された臓器から水分(胸水)が染み出します。

これが肺を収める肋骨に囲まれた空間(胸腔)に貯蓄されることで、呼吸を阻害します。咳や開口呼吸のような症状がみられる犬もいます。

2-6、節外型リンパ腫

リンパ腫が目・口腔・鼻腔、骨や心臓などのリンパ節ではないところから発生するものを節外型リンパ腫といいます。節外型リンパ腫に関しては、発生部位により犬に引き起こされる症状が異なります。


3、抗がん剤療法と多剤併用療法の治療プロトコール

ここでは、犬のリンパ腫における主な治療法である抗がん剤プロトコール(治療計画)について詳しくご紹介致します。

3-1、リンパ腫における抗がん剤療法

犬のリンパ腫は多中心型リンパ腫のように複数の臓器に発生するものがあり、また発見されたときには全身に転移しているケースが多いのが特徴です。そのため多くの犬の場合、外科的な治療方法を選択することが難しい腫瘍です。

猫における鼻腔内リンパ腫のように放射線療法を積極的に行うものもありますが、犬では放射線療法はQOL向上のために腫瘍をできるだけ小さくする目的で使用されます。犬のリンパ腫は以上の理由により、抗ガン剤療法が主な治療法なります。

リンパ腫の抗がん剤療法は単剤で行う場合もありますが、一般的には多剤併用療法を行います。これはリンパ腫が抗がん剤に耐性を持つことを防ぐ目的があり、また複数の薬の相乗効果で犬の体にできた腫瘍を攻撃する目的や、複数の薬を併用して使うことで個々の薬の量を減らして薬の副作用を減らすという目的もあります。多剤併用療法にはCHOP、COP、AC、UWなど多数のプロトコールがあります。

3-2、CHOPプロトコール

CHOPプロトコールは、多くのプロトコールのモデルとなったプロトコールになります。シクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスティン、プレドニゾロンの4種類の薬剤を使用します。このプロトコールを使用した場合、余命は12カ月程度と報告されています。

3-3、COPプロトコール

COPプロトコールは、副作用が強くでてしまう犬に対して使用されます。シクロフォスファミド、ビンクリスティン、プレドニゾロンの3種類の薬剤を使用します。副作用が少ない反面、他のプロトコールに比べると効果が弱くなる傾向にあります。2カ月の間、週に一度の治療を行い、その後は2週間に一度を目安に維持療法を行う必要があります。


3-4、ACプロトコール

ACプロトコールは、通院回数を抑えるためのプロトコールです。3週間に一回の強めの抗ガン剤(ドキソルビシン)の注射と、家庭での経口薬(シクロフォスファミド)の投与を組み合わせたものです。通院回数は減りますが、後述するUWプロトコールと比較すると効果が弱いのが特徴です。

3-5、UW(ウィスコンシン大学プロトコール)

UWプロトコールは、犬のリンパ腫における抗がん剤治療で最も一般的とされているプロトコールで、CHOPプロトコールで使う薬剤にL-アスパラギナーゼを追加した5種類の薬剤を使用します。2カ月の間、週に一度の治療を行い、その後は4カ月の間、2週間に一度治療を行います。このプロトコールを使用した場合、犬によって異なるものの余命は14カ月程度と報告されています。

3-6、抗がん剤療法の費用について

犬の抗がん剤療法の費用については、30kg前後(ゴールデン・レトリバーの平均体重)の大型犬でUWプロトコールを行った場合、6カ月間で35万円前後であるといわれています。COP、ACなどのプロトコールは比較的安価ではありますが、維持療法や再治療の必要を考慮するとUWプロトコールの費用と同程度とされています。

動物病院における治療費は国で一律に定められているものではありませんので、同じ薬剤を使用した動物用医薬品でも特性の異なるものがあり、薬価もそれぞれ異なります。動物病院で働く獣医師は日々の経験や最新の知見を駆使して、様々な特性を持つ薬の中から治療効果が高いと思われる薬を購入して使用しています。

犬や猫などの動物治療費を変動させる要因として薬価以外にも人件費などがあり、それらは全ての治療行為に必要な費用です。そのため、動物病院の治療費を個々の病院で比較することはできませんので、本記事で記述している治療費はあくまで一例としてご紹介しております。

4、抗がん剤の副作用

犬のリンパ腫の治療に使用される薬剤はシクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスティン、プレドニゾロン、L-アスパラギナーゼなどがあります。シクロフォスファミドには骨髄抑制、ドキソルビシンには心毒性、ビンクリスティンには骨髄抑制、神経毒性、L-アスパラギナーゼには肝障害、などの副作用がみられます。

また、プレドニゾロンには過剰投与による犬の医原性クッシング症候群、免疫抑制などの副作用がみられます。癌細胞はもともと体の中にある細胞ですので、抗がん剤は癌細胞にだけ毒性を持つわけではなく、他の正常な細胞にも影響します。抗がん剤に関しては「毒を持って毒を制す」と言われるのはこのためです。

治療においては、犬のリンパ腫の進行状況や転移状況、副作用リスクなど様々な視点から抗がん剤について獣医師としっかりと話し合い、検討することが大切です。


WRITER Profile

獣医師ライター:  若林 薫
子犬や子猫の治療、健康管理を得意分野とする。動物病院の獣医師と飼い主を繋ぐための専門的で分かりやすい記事を執筆。獣医師免許証保有。

サイト運営者:  望月 紗貴
犬たちの幸せ(=飼い主の意識の向上)を目的とし情報提供サイトを開設。犬の看護師や介護士、管理栄養士資格など保有。他社の記事監修・作成も多数請け負う。

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