犬のがん|悪性度の高い組織球性肉腫〔獣医師解説〕

1、犬の組織球性肉腫とは?特徴や転移
2、犬の組織球性肉腫は何故できる?原因
3、犬に組織球性肉腫ができたら?症状
4、犬の組織球性肉腫の進行度合いや余命
5、犬の組織球性肉腫の予防・早期発見
6、犬の組織球性肉腫に効果を示す抗がん剤

バーニーズマウンテンドッグやフラットコーテッドレトリーバーなどが発症しやすい「組織球性肉腫」は、非常に悪性度が高い腫瘍だといわれています。今回は、そんな組織球肉腫について特徴や転移率、原因や抗がん剤などの専門的内容を獣医師に幅広く解説していただきました。

1、犬の組織球性肉腫とは?特徴や転移

1-1、組織球性肉腫とは?

犬の組織球性肉腫は、樹状細胞やマクロファージと呼ばれる組織球(免疫を担当する細胞)からできてしまう悪性腫瘍です。他の臓器に転移しやすく増殖も速いため、非常に悪性度の高い腫瘍と言えます。組織球と関連する病気として皮ふ組織球腫・反応性組織球症(全身性組織球症)などがありますが、皮ふ組織球腫は良性の腫瘍であり、反応性組織球症は腫瘍ではありません。組織球性肉腫では四肢と肺・肝臓・脾臓に腫瘍が発生することが多いのが特徴です。

1-2、組織球性肉腫を発症しやすい犬種

組織球性肉腫になりやすい犬種(好発犬種)があり、バーニーズマウンテンドック、フラットコーテッドレトリバー、ゴールデンレトリバーなどの大型犬、もしくは日本国内ではウェルシュコーギーペンブロークでの悪性腫瘍の発生が多く報告されています。バーニーズマウンテンドックとフラットコーテットレトリバーにおいては、死因の50~60%が組織球性肉腫を含む様々な悪性腫瘍によるものであり、また両犬種で1/7以上が組織球性肉腫で死亡しているとも言われています。

1-3、組織球性肉腫の種類

組織球性肉腫は一つの臓器から腫瘍が発生する「局所性組織球性肉腫」と、多くの臓器から腫瘍が発生する「播種性組織球性肉腫」、腫瘍細胞が正常な細胞を食べてしまう「血球貪食性組織球性肉腫」の3つのタイプがあります。播種性組織球性肉腫に比べると、局所性組織球性肉腫は悪性腫瘍の増殖が遅い傾向があります。しかし局所性組織球性肉腫は38~60%の高い転移率を持つため、発見されたときにはいくつもの臓器に悪性腫瘍が転移していることが多く、悪性度が高いのが特徴です。中でも血球貪食性組織球性肉腫は最も悪性度が高く、重度の貧血などの症状と共に急速に体調が悪化し死亡します。

2、犬の組織球性肉腫は何故できる?原因

2-1、遺伝子的変異が原因?

犬の組織球性肉腫の原因として、免疫を担当する細胞による異常なたんぱく質の分泌、遺伝子の変異などの仮説がありますが、まだ明らかにされていないことが多いのが特徴です。
いくつかある仮説の中で興味深いものをご紹介します。健康な状態でも遺伝子にはたえず変異が起きています。その変異の結果、がん細胞が発生したり、細胞が自死するアポトーシスという現象が起きたりします。組織球性肉腫を持つ犬の遺伝子には特定の変異がみられ、組織球性肉腫の好発犬種において他の犬種よりもその変異が多いという報告があります。組織球性肉腫の発生が遺伝と関係があると言い換えることが出来るでしょう。

2-2、免疫を低下させる働き

人間の免疫を担当する細胞の腫瘍で注目されている免疫チェックポイントというものがあります。免疫チェックポイントとは免疫を担当する細胞に存在する分子で、この中のCTLA-4、PD-1は多く存在することで腫瘍に対する免疫を低下させる働きがあります。犬の組織球性肉腫では、CTLA-4およびPD-1の量が健康な犬に比べて増加しているという報告があります。つまり犬の組織球性肉腫では腫瘍に対する免疫を低下させる働きが存在している可能性があるということです。

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3、犬に組織球性肉腫ができたら?症状

悪性腫瘍が発生している臓器により様々な症状がみられます。局所性組織球性肉腫では四肢に発生することが多く、歩行困難や関節の腫れなどの特徴的な症状がみられます。しかし、転移率が高く、多臓器が原因となる複合的な症状がみられる場合があります。

播種性組織球性肉腫では四肢の症状に加えて、咳、喀血、嘔吐、下痢、発熱などの他の病気でも起りうる症状がみられる場合があります。血球貪食性組織球性肉腫では、免疫を担当する細胞が異常な細胞を食べる能力を失わないままがん化します。そのため、正常な赤血球や血小板を癌細胞が食べてしまい重度な貧血や血小板減少症(血が止まらなくなる病気)を発症します。

4、犬の組織球性肉腫の進行度合いや余命

犬の組織球性肉腫は病気の進行が早いため、余命は短くなる傾向があります。
発見時の病気の進行度合いなどにより差が生じますが、局所性組織球性肉腫の余命は7~8か月程度、播種性組織球性肉腫では4か月程度と言われています。血球貪食性組織球性肉腫では最も余命が短く1~2か月程度という報告もあります。

5、犬の組織球性肉腫の予防・早期発見

残念ながら犬の組織球性肉腫を予防する方法は、現在のところ発見されていません。早期発見による治療が重要になります。特に局所性組織球性肉腫においては四肢に悪性腫瘍ができることが多く、転移する前に腫瘍を発見できれば外科的切除が可能なことがあります。外科的切除をした場合、抗がん剤のみの治療に比べて余命が長いという報告もあります。

早期発見のためには毎日の健康観察はもちろん、全身をなでで皮膚や足にシコリがないか確認してあげて下さい。なんらかの異常が見つかった場合はお家で経過観察をするよりも動物病院で獣医師の診察を受けた方が良いでしょう。悪性腫瘍の有無だけではなく、他の病気が見つかるかもしれません。年に何回かの定期的な健康診断を受診することも早期発見には重要です。

最近は人の健康診断のように犬の健康診断を実施している動物病院も増えてきました。健康診断の内容はコースによりさまざまですが、血液検査やエコー検査・X線検査などにより様々な病気の早期発見につながります。

6、犬の組織球性肉腫に効果を示す抗がん剤

犬の組織球性肉腫は局所性組織球性肉腫の場合、病巣を外科的に切除することが可能ではありますが、急速に増殖・転移をする悪性腫瘍の性質上、発見されたときにはすでに外科的切除が困難な場合が多くあります。

播種性組織球性肉腫と血球貪食性組織球性肉腫では外科的切除が極めて難しく、次の選択肢として抗がん剤療法や放射線療法などが挙げられます。長い間犬の組織球性肉腫に有効な抗がん剤は発見されてきませんでしたが、2003年にアメリカでロムスチンという抗がん剤が組織球性肉腫に有効であるという報告がなされました。近年の研究ではロムスチンとドキソルビシンという二つの抗がん剤を併用する療法による治療成績も報告されています。

しかしながら、犬の組織球性肉腫に対して長期間の余命・病気の完治をすることができる抗がん剤はいまだ発見されていません。現在、様々な種類の抗がん剤や分子標的薬と呼ばれる新しい種類の抗がん剤が組織球性肉腫の治療に使用できるか試験されています。

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WRITER Profile

獣医師ライター:  若林 薫
子犬や子猫の治療、健康管理を得意分野とする。動物病院の獣医師と飼い主を繋ぐための専門的で分かりやすい記事を執筆。獣医師免許証保有。

サイト運営者:  望月 紗貴
犬たちの幸せ(=飼い主の意識の向上)を目的とし情報提供サイトを開設。犬の看護師や介護士、管理栄養士資格など保有。他社の記事監修・作成も多数請け負う。

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